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数学大好き集団「ピタゴラス教団」とピタゴラスの弟子たち

ピタゴラスの定理」で知られるピタゴラスといえば、数学界のレジェンド、知らない人はいないほどのスーパースターです。そんな彼が現役時代に設立したのが、数学・哲学・政治・天文学・宗教・音楽など、さまざまな学問を学ぶための「ピタゴラス教団」。代表者のピタゴラスばかり後世に知られていますが、弟子にはどんな人たちがいたのでしょう?

ピタゴラスのようなスーパースターに直接指導を受けているのですから、きっと弟子たちも優秀だったのでしょう。今回はそんなピタゴラスの弟子たちに焦点を当てて紹介します!

 

数の神秘を信じた古代の哲人、ピタゴラス - 文系から見る数学の魅力

 

ピタゴラス教団ってどんな集団?

ピタゴラス教団は非常に独特で厳格な生活規律を持った集団です。その規律は教団の宗教的・哲学的信念に基づいていました。代表的なルールとして菜食主義・禁欲主義・毎日の瞑想や自己反省・精神的修行・規則正しく倹約的な生活・財産の共有(個人の所有を認めず必要に応じて平等に分配)・聖なる数の崇拝などがあります。特にピタゴラス教団は10を完全数として崇拝していたようです。他にも三角形や四角形といった幾何学的形状にも神聖な意味を見出していました。教団員たちは、神聖な数や形を瞑想し、それを通じて宇宙の秩序や真理に対する理解を深めることが求められました。特定の数に関する儀式や祈りも行われていたとされています。

 

ピタゴラス教団で取り扱う学問

ピタゴラス教団では、数学を中心に、音楽、哲学、天文学神秘主義といったさまざまな学問が総合的に取り扱われていました。これらの学問は、ピタゴラスの「万物は数である」という信念のもとに統合されており、数や数学が宇宙の秩序を理解する鍵として重要視されていました。ピタゴラス教団で取り扱っていた主な学問は次の通りです。

1. 数学

  • 概要: 数学はピタゴラス教団の中心的な学問であり、特に数論と幾何学が重視されました。ピタゴラスは「万物は数である」という信念を持っており、数そのものが宇宙の本質や秩序を表すと考えられていました。
  • 具体的な取り組み:
    • ピタゴラスの定理: 直角三角形の斜辺の長さの二乗が他の二辺の二乗の和に等しいという定理は、ピタゴラス教団で体系化されました。
    • 数の性質: 完全数友愛数(amicable numbers)など、数の特性に関する研究が行われ、数に神秘的な意味が見出されました。

2. 音楽

  • 概要: ピタゴラス教団は、音楽を数学と密接に結びつけた学問として取り扱いました。ピタゴラスは、音楽の調和が数の比に基づいていることを発見し、音楽理論を数学的に解明しました。
  • 具体的な取り組み:
    • 音階と数の関係: 弦の長さが音程に影響を与えることを発見し、音階が整数の比で表現できることを示しました。この研究は音楽理論の基礎となり、後に西洋音楽にも影響を与えました。
    • 音楽の調和と宇宙: ピタゴラスは「天球の音楽」という概念を提唱し、天体の運行もまた数的な調和に従っていると考えました。

3. 哲学

  • 概要: ピタゴラス教団では、数学や音楽を含む自然哲学が探求され、これにより宇宙や存在の本質を理解しようとしました。ピタゴラスは、魂の輪廻や宇宙の秩序と調和を重視する哲学を発展させました。
  • 具体的な取り組み:
    • 魂の輪廻: ピタゴラス教団では、魂が死後に新たな生命体に転生するという信念が持たれていました。この考えは、教団の倫理や行動規範に深く影響を与えました。
    • 倫理と宗教: 教団内では、魂の浄化や倫理的な生活が重視され、肉体的快楽を避け、精神的な成長を目指す修行が行われました。

4. 天文学

  • 概要: ピタゴラス教団では、数学と天文学が結びつけられ、天体の運行や宇宙の構造について研究されました。ピタゴラスは、天体の運行が数学的な法則に従っていると考えました。
  • 具体的な取り組み:
    • 天球の音楽: 天体が運行する際に生じる調和の音(「天球の音楽」)が存在すると仮定し、宇宙全体が数的な調和によって統制されていると考えました。
    • 地球と宇宙の関係: 教団内では、地球が宇宙の中心に位置していると考えられ、天体の規則的な運行が数学的に説明されました。

5. 神秘主義数秘術

  • 概要: ピタゴラス教団は、数学的な研究に神秘的・宗教的な意味を持たせ、数そのものに神聖な力があると信じていました。この考え方は数秘術として知られ、数に秘められた意味を解釈する試みが行われました。
  • 具体的な取り組み:
    • 数秘術: 特定の数に神秘的な意味を見出し、その数が持つ性質や力を探求しました。例えば、「10」は完全数として崇拝されました。
    • 神聖幾何学: 数や形が持つ神聖な意味を解釈し、宇宙の秩序や人間の運命に関する洞察を得ようとしました。

有名な弟子たち

それではいよいよ、ピタゴラスの弟子たちを紹介します。ピタゴラス教団は秘密主義的な性質があるため、多くの記録が外部に漏れないよう管理されており、ピタゴラスの弟子の正確な数も不明です。直接の弟子だけでなくピタゴラスの思想を受け継いだ多くの間接的な弟子や信奉者を含むと、かなりの多くの弟子がいたようです。ここではそんな弟子のうちから有名な方たちを紹介します!

1. フィロラオス (Philolaus)

  • 背景: フィロラオスは、ピタゴラス教団の中で特に有名な弟子の一人であり、紀元前5世紀頃に活躍しました。彼はピタゴラスの教えを整理し、数に関する思想を体系化したとされています。フィロラオスは、「万物は数である」というピタゴラスの信念をさらに発展させ、数が宇宙の構造を形成する基本要素であると主張しました。
  • 業績: フィロラオスは、天動説に反する考え方を示唆し、地球が宇宙の中心ではないという思想を持っていたと言われています。また、彼は数の比率が物理的な現象を説明するための鍵であると考え、音楽の調和に関する理論も発展させました。

2. アルキタス (Archytas)

  • 背景: アルキタスは、紀元前5世紀から4世紀にかけて活躍したピタゴラス教団の弟子であり、数学者、政治家、将軍として知られています。彼は哲学者プラトンの友人でもあり、数学と哲学を結びつけた研究を行いました。アルキタスは、幾何学と数論において重要な貢献をしました。
  • 業績: アルキタスは、立体幾何学における複雑な問題を解くための手法を考案しました。特に、「立方体倍積問題」の解法に取り組んだことで知られています。また、彼は数学を政治や軍事にも応用し、ピタゴラス教団の教えを社会の現実に適用することに努めました。

3. エウリュトス (Eurytus)

  • 背景: エウリュトスは、ピタゴラス教団の初期の重要なメンバーの一人であり、数を用いて物質や現象を説明しようとしたことで知られています。彼は、数が物質的な形や色を表すことができるという考え方を持っていました。
  • 業績: エウリュトスは、数を用いて事物の本質を理解する試みを行いました。例えば、彼は異なる数字が異なる物質を象徴し、数と物質の間に対応関係があると主張しました。この考え方は、ピタゴラス教団における数の神秘的な意味を強調するものでした。

4. リュシス (Lysis of Taras)

  • 背景: リュシスは、ピタゴラス教団の忠実な弟子であり、ピタゴラスの死後もその教えを広めるために活動しました。彼は、ピタゴラス教団が迫害された際に、ギリシャを逃れてテーベに移住し、そこで教えを伝え続けたとされています。
  • 業績: リュシスは、ピタゴラスの教えを後世に伝えるために尽力し、彼の哲学や数学的思想を他の地域に広める役割を果たしました。彼はまた、将来の哲学者たち、特にプラトンに間接的に影響を与えたと考えられています。

5. ゾーノン (Zeno of Elea)

  • 背景: ゾーノンは、ピタゴラス教団の教えを受け継ぎつつも、パルメニデスの弟子としても知られる哲学者です。彼は、パラドックス(いわゆる「ゼノンの逆説」)を用いて、運動や変化の本質について哲学的な議論を展開しました。
  • 業績: ゾーノンは、数と論理を用いて哲学的な議論を深めることに貢献しました。彼の逆説は、現代の数学や物理学においても重要なテーマであり、ピタゴラスの影響を受けた彼の論理的思考が、後世の哲学に大きな影響を与えています。

6. ヒッパソス (Hippasus)

  • 背景: ヒッパソスは、古代ギリシャの数学者で、ピタゴラス教団の一員として知られています。彼は、特に無理数(例えば、√2など)の発見に関与したことで有名ですが、その発見がピタゴラス教団内で大きな物議を醸し出しました。
  • 無理数の発見

    • 背景: ピタゴラス教団では、「万物は数である」という信念が強く、その数はすべて整数または整数の比(有理数)で表現できると考えられていました。これに基づいて、教団は数学と宇宙の秩序を結びつけていました。
    • 発見: ヒッパソスは、直角二等辺三角形の斜辺を計算する過程で、2\sqrt{2}有理数ではないこと、つまり分数で表せないことを発見しました。これが「無理数」の最初の発見とされており、ヒッパソスのこの発見は数学史上重要な出来事でした。
    • ピタゴラス教団との対立: しかしピタゴラス教団にとって、無理数の存在は教団の教義と矛盾していました。教団は、宇宙が完璧で調和のとれた有理数の比で説明できると信じていたため、無理数の発見はその信念を揺るがすものでした。
    • 伝説: 伝説によると、ヒッパソスが無理数の存在を発表した際、教団の他のメンバーはこれを大いに非難し、ヒッパソスは教団から追放されたとも、船から投げ捨てられて処刑されたとも言われています。この話が事実かどうかは不明ですが、無理数の発見がピタゴラス教団において非常に衝撃的であったことは確かです。
    • 数学的影響: ヒッパソスの無理数の発見は、数学における重要な転換点となりました。無理数の存在は、数学の範囲を広げ、後のユークリッドなどが数学をより厳密に発展させるための基礎となりました。

 

ピタゴラス教団の最期

ピタゴラス教団は、ピタゴラスの死後もしばらくの間活動を続けましたが、最終的には様々な要因により衰退し、解体されていったようです。主な要因に、教団内の分裂や外部からの迫害があったようです。迫害や内部の分裂を経て、ピタゴラス教団は徐々に解体し、教団員たちは各地に散らばり、教団としての統一性は失われてしまいました。しかし、ピタゴラスの思想や教えは弟子たちを通じてギリシャ全土に広がり、今日に至っています。

 

 

ピタゴラス教団ってこんな団体
・ストイック
・秘密主義
・数学大好き
・政治や天文学、音楽など幅広い学問を扱う

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