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20世紀数学の旗手、ヒルベルト

ヒルベルトをご存知ですか?数学だけでなく物理学でも活躍した彼は、具体的な問題を抽象化・一般化した人物です。ちょっと離れた場所から問題を眺め、その解決法を他の問題や分野にあてはめる「具体と抽象」は優秀な問題解決の手法ですが、ヒルベルトは19世紀に数学の分野で抽象化・一般化を進め、体系化を試みた人物です。今回はそんなヒルベルトについて紹介します!

ヒルベルトのイメージ

ダフィット・ヒルベルト(David Hilbert, 1862-1943)は、ドイツのケーニヒスベルク(現在のロシア・カリーニングラード)で生まれた、20世紀を代表する数学者の一人です。彼の業績は、現代数学において非常に大きな影響を与え、彼の名前は数学のあらゆる分野で広く知られています。

 

生い立ち

ヒルベルトは、1862年プロイセン王国ケーニヒスベルクで生まれました。彼の父は裁判官であり、家庭は知的な環境でした。地元のギムナジウムを卒業後、ケーニヒスベルク大学に進学し、そこで数学の道を選びました。彼の学問的な才能は早くから認められ、後にフェリックス・クラインやヘルマン・ミンコフスキーなどと親交を深めました。

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数学者としての功績

1. ヒルベルトの23の問題

  • ヒルベルトの最も有名な業績の一つは、1900年に開催されたパリの国際数学者会議で提示した「23の問題」です。これらの問題は、20世紀の数学研究に大きな影響を与え、現代数学の発展の道筋を示すものでした。これらの問題のいくつかは、現在もなお未解決であり、数学者たちにとって重要な研究課題となっています。

2. ヒルベルト空間

  • ヒルベルトは、無限次元のベクトル空間である「ヒルベルト空間」の概念を確立しました。この概念は、量子力学関数解析の基礎を成すものであり、現代物理学や数学において不可欠なツールとなっています。

3. 数理論理と形式主義

  • ヒルベルトは、数学の基礎を厳密に確立するために「形式主義」を提唱しました。彼の目標は、数学を完全に矛盾のない体系として構築することでした。この考え方は、後にクルト・ゲーデル不完全性定理により完全には実現されなかったものの、数学の基礎論において重要な役割を果たしました。

4. 不変式理論

  • ヒルベルトは、19世紀後半に不変式理論という分野で重要な成果を上げました。彼は有限生成の不変式系が存在することを証明し、この分野における古典的な問題を解決しました。この結果は、代数学の発展に大きく寄与しました。

5. 幾何学の基礎

  • ヒルベルトは、ユークリッド幾何学の基礎を再定義し、厳密で論理的な体系として構築しました。彼の著作『幾何学の基礎』は、幾何学の公理系を再編成し、その完全性と一貫性を証明するための重要な文献となりました。

人柄と影響

ヒルベルトは、非常に広い視野を持ち、数学のあらゆる分野において影響力を持つ人物でした。彼は多くの弟子を育て、その中にはジョン・フォン・ノイマンヘルマン・ワイルなど、後に著名な数学者となる人物が含まれています。彼の研究スタイルは、明快でありながらも深い洞察を伴い、数学を理論的に体系化することに一貫して取り組みました。

ヒルベルトは、「我々は知るべきことを知るだろう。疑いはない。」という言葉で知られ、数学に対する確固たる信念を持ち続けました。彼の業績は、20世紀の数学の発展において決定的な役割を果たし、今日でも数学者たちに深い影響を与え続けています。

そんなヒルベルトにまつわるエピソードを紹介します。

 

1. 「無限ホテルのパラドックス

  • ヒルベルトは、無限集合の概念を説明するために「無限ホテルのパラドックス」という思考実験を考案しました。このパラドックスでは、無限に部屋があるホテルが満室であっても、新たな宿泊客を無限に受け入れることができるという矛盾のような状況を描き、無限集合の性質を直感的に説明しました。これは、無限の概念がいかに奇妙でありながらも、数学的には整然としているかを示す有名な例です。

2. 「数学に不可能はない」

  • ヒルベルトは、数学に対する非常に前向きな姿勢を持っていました。彼は、「数学において不可能なことはない」という信念を持ち、数学のあらゆる問題は最終的には解決可能であると考えていました。この信念は、彼が数学に対して持っていた深い確信を表しており、彼の名言「我々は知るべきことを知るだろう。疑いはない。」に象徴されています。

3. ゲーデル不完全性定理ヒルベルト

  • ヒルベルトは、数学を完全で一貫した体系として構築することを目指しましたが、1931年にクルト・ゲーデルが発表した「不完全性定理」によって、この目標が理論的に不可能であることが示されましたゲーデルの定理は、ヒルベルト形式主義にとって大きな挑戦となりましたが、ヒルベルトはこの発見を受け入れ、数学の探求を続けたそうです。はるか昔の偉人ピタゴラスにとって、弟子が発見した無理数は信念に反する存在でした。ピタゴラスほどの賢者でも自分が信じることと異なる事実は受け入れがたいものです。ヒルベルト不完全性定理を受け入れ、なおかつ数学の研究を続けたことは、彼の学問に対する謙虚さと柔軟性を示しています。

4. ヒルベルトフォン・ノイマン

 

ヒルベルトってこんな人
・異なる問題の共通点を見つけるのが得意
・一般化・抽象化の工程を経て、理論を体系化した
・数学だけでなく物理でも活躍した
・「数学に不可能はない」と信じた
・著名な数学者とつながりのある社交的な人だった
・多くの弟子を持っていた
不完全性定理によって己の夢が破れても、事実を受け入れて研究をつづけた

 

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・無限ホテルのパラドックス
・無限集合
ヒルベルトの23の問題
ヒルベルト空間
・クルト・ゲーデル
ジョン・フォン・ノイマン

 

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