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数学界のノーベル賞といえば「フィールズ賞」

フィールズ賞というと「数学界のノーベル賞」といった形容がよく見られます。今月はノーベル賞月だったことにちなんで、この記事ではフィールズ賞についてご紹介します!

フィールズ賞の概要

フィールズ賞(Fields Medal)は、数学界で最も権威のある賞の一つです。フィールズ賞の概要は以下の通りです。

  • 設立年: 1936年
  • 国:カナダ
  • 主催: 国際数学連合(IMU)
  • 対象: 40歳以下の数学者で、優れた研究成果を挙げた者。
  • 概要: フィールズ賞は、4年に一度開催される国際数学者会議(ICM)で授与され、若手数学者にとって非常に名誉ある賞とされています。受賞者の多くは、これを契機にその後のキャリアでさらに飛躍を遂げます。オリンピックの金メダルに例えられることも多く、若手数学者のモチベーションを高める重要な役割を果たしています。

 

フィールズ賞の誕生と目的

  • 設立の背景: フィールズ賞は、カナダの数学者ジョン・チャールズ・フィールズ(John Charles Fields, 1863-1932)の遺志によって設立されました。フィールズは、数学の国際的な協力と交流を深めるため、数学者の功績を称える賞を作りたいと考えていました。

  • ノーベル賞の欠落を補う: フィールズがこの賞を提案した背景には、ノーベル賞に数学部門がないことがありました。彼は、優れた数学の業績を評価することで、若い数学者たちに大きな動機づけを与えることを目指しました。

  • 設立年: フィールズ賞は1936年に第1回が開催されましたが、その後、第二次世界大戦の影響でしばらく中断し、1950年以降は4年に一度の国際数学者会議(International Congress of Mathematicians, ICM)で授与されることになりました。

  • 授賞の基準: フィールズ賞は40歳以下の数学者に授与され、主に革新的な研究を行った若手の数学者を称えます。40歳以下という年齢制限があるため、研究の初期段階で顕著な業績を挙げた者に贈られることが多く、将来の活躍を期待される賞として位置づけられています。

主な受賞者とその業績

  • フィールズ賞の受賞者には、後に数学界で大きな影響を持つようになった数学者が多くいます。以下に、代表的な受賞者とその業績を紹介します。

  • アレクサンドル・グロタンディーク(Alexander Grothendieck, 1966年)

    • 業績: 代数幾何学の革命的な発展に貢献し、現代の代数幾何学の基盤を築きました。彼の抽象的な手法は、代数的構造の統一的な理解を可能にし、数学の多くの分野に影響を与えました。
    • エピソード: グロタンディークは、フィールズ賞受賞後も数学界で非常に独創的な研究を続けましたが、後に研究から身を引き、隠遁生活を送るようになりました。そのため、彼の存在と業績は数学界で伝説的なものとなっています。
  • エドワード・ウィッテン(Edward Witten, 1990年)

    • 業績: 理論物理学者として、数学と物理学の境界領域である数理物理学において大きな成果を挙げました。彼の研究は、特に弦理論や位相的場の理論における数学的理解を深め、純粋数学と物理学の関係を再定義しました。
    • エピソード: ウィッテンは、フィールズ賞を受賞した初の物理学者で、彼の受賞は「物理学が数学をどのように刺激し得るか」を示す象徴的な出来事として、当時大きな注目を集めました。
  • マリアム・ミルザハニ(Maryam Mirzakhani, 2014年)

    • 業績: イラン出身の数学者で、リーマン面のモジュライ空間に関する研究で顕著な業績を挙げました。特に、曲面の測地線の長さや構造についての深い理解を提供し、数理物理学にも応用される結果を導きました。
    • エピソード: ミルザハニは、フィールズ賞を受賞した初の女性であり、また中東出身の受賞者としても歴史的な意義があります。彼女の受賞は、数学界における多様性とジェンダーの壁を打ち破る象徴的な出来事とされ、彼女の業績は今でも多くの若い研究者にインスピレーションを与えています。
  • テレンス・タオ(Terence Tao, 2006年)

    • 業績: 数解析、調和解析偏微分方程式など、多岐にわたる数学の分野で卓越した成果を挙げています。彼の研究は、純粋数学応用数学の両方にまたがっており、数学界全体に大きな影響を与えています。
    • エピソード: テレンス・タオは「数学の神童」として知られ、非常に若い年齢で大学に進学し、その後も数々の革新的な研究を発表しました。彼のフィールズ賞受賞は、彼が世界でもトップクラスの数学者であることを証明しました。

フィールズ賞にまつわるエピソード

  • エフィメンコフの「満点拒否」事件(1962年)

    • 1962年、フィールズ賞の受賞候補に挙がっていたロシアの数学者エフィメンコフは、政治的な理由からソ連政府によって受賞を拒否されました。冷戦時代の影響で、彼の受賞が阻まれたことは、フィールズ賞の歴史の中でも象徴的なエピソードとなっています。
  • グロタンディークの抗議(1966年)

    • グロタンディークは、フィールズ賞を受賞する直前にベトナム戦争に対する抗議のために、国際数学者会議(ICM)の開催地であったモスクワへの出席を拒否しました。彼は平和主義者としての立場を貫きましたが、最終的には賞自体は受け入れました。この行動は、彼の独特な人生観と数学界への影響を物語っています。
  • フィールズ賞メダルの盗難(2006年)

 

フィールズ賞の意義

  • 若手研究者の奨励: フィールズ賞は、40歳以下の研究者を対象にしているため、若手の数学者にとって非常に強い動機づけとなっています。多くの数学者が、フィールズ賞を目指して研究を行い、受賞することでさらに大きな研究成果を挙げるようになります。
  • 数学界への影響: フィールズ賞は、数学の特定の分野に注目を集める役割も果たしており、受賞者が研究したテーマがその後の数学研究において注目を集めることが多いです。
  • 国際的な協力の象徴: フィールズ賞の授与は、国際数学者会議(ICM)という場で行われるため、国際的な数学のコミュニティの結束を象徴するものです。数学者が国境を越えて協力し合い、共に研究を進める場としての意味も持っています。

 

フィールズ賞のメダルのイメージ(実物とは異なります)

 

歴史ある賞なだけあって、受賞者は豪華な顔ぶれですし、さまざまなドラマを生んでいますね。そんなフィールズ賞は、単なる数学の業績を称えるだけでなく、数学者の人生や価値観、そして国際的な協力の象徴としても重要な意味を持っています。多くの数学者がフィールズ賞を目指して研究に打ち込み、受賞者たちのエピソードは、数学界の歴史を彩る伝説として語り継がれています。これにより、フィールズ賞は数学界にとって特別な存在であり続けています。