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数学とノーベル賞

10月といえばノーベル賞の時期ですね。2024年は10/7~10/14の期間に、生理学・医学賞を先頭に、人類に対して大きな恩恵をもたらした人物に賞が与えられます。ノーベル賞の対象は、物理学・化学・生理学・医学・文学・平和および経済学の「5分野+1分野」です。というわけで、今回はノーベル賞にちなんで、数学界の栄誉ある賞をご紹介します。

ノーベル賞と数学

すでにお伝えした通り、ノーベル賞の対象は「物理学、数学、生理学、医学、文学、平和、経済学」のみで、数学部門はありません。そのため、数学の研究そのものに対してノーベル賞を受賞した人はいません。しかし、数学者がノーベル賞に関連する業績を通じて受賞するケースは存在します。有名なケースでは以下のようなものがあります。

 

  1. ジョン・ナッシュ - 数学者で、ゲーム理論の「ナッシュ均衡」を提唱しました。彼は数学そのものでノーベル賞を受賞したわけではありませんが、この理論が経済学に大きな影響を与えたため、1994年に「ノーベル経済学賞」を受賞しました。

  2. クロード・シャノンアラン・チューリング - 情報理論や計算理論の発展に寄与しましたが、これらもノーベル賞の対象ではありません。しかし、彼らの研究は様々なノーベル賞受賞者の研究に影響を与えています。

 

なお、数学界にはノーベル賞に相当する名誉ある賞として、「フィールズ賞」や「アーベル賞」があります。フィールズ賞は40歳以下の優れた数学者に与えられ、アーベル賞は年齢制限なく、数学の各分野で顕著な功績を挙げた研究者に贈られます。

 

ノーベル賞に数学部門がないのは何故か?

ノーベル賞に数学部門がない理由については、いくつかの説や推測がありますが、正確な理由ははっきりしていません。以下に、よく言われる理由や背景をいくつか紹介します。

1. ノーベルの意図に関する説

  • アルフレッド・ノーベルが1895年にノーベル賞を設立する際に、数学を含めなかった理由についての明確な説明は残されていません。ノーベルの遺言には、平和、文学、化学、物理学、生理学または医学の分野に関する賞を設けることが記されていますが、数学についての言及はありません。
  • 一部の学者や歴史家は、ノーベル自身が数学よりも実用的な発明や科学の進歩に重点を置きたかったのではないかと推測しています。彼はダイナマイトの発明者であり、科学技術の実践的応用に強い関心を持っていたため、社会に直接貢献する分野を重視した可能性があります。

 

2. 個人的な理由に関する説(伝説的な説)

  • 非公式な説として、ノーベルが数学者を好まなかったという話があります。特に有名なのが、「ノーベルが恋愛関係で対立した相手が数学者だった」という伝説です。この説によれば、ノーベルの恋人がスウェーデンの数学者ミッタク=レフラー(Gösta Mittag-Leffler)と関係があったため、ノーベルは数学を避けたとされています。
  • しかし、この説は信頼性が低く、歴史的証拠もありません。多くの歴史家は、このエピソードを単なる噂話として扱っています。

 

3. 他の賞との競合の可能性

  • 19世紀後半、スウェーデンや他の国々には、すでに数学の功績を称える賞がいくつか存在していました。たとえば、フランスの「アカデミー賞」などです。ノーベルは、新しい分野での顕著な業績を称えることを望んでおり、既存の賞と重複しないようにした可能性も考えられます。
  • ただし、フィールズ賞が設立されたのは1936年であり、これはノーベル賞よりもずっと後のことです。したがって、フィールズ賞があるから数学部門がノーベル賞にないというわけではありません。

 

4. フィールズ賞アーベル賞の登場

 

 

数学そのものの研究に対して直接的にノーベル賞が与えられてはいませんが、数学的手法や理論を経済学や科学の分野に応用して、画期的な成果を挙げた研究者たちがノーベル賞を与えられることがあるようです。これは数学がノーベル賞受賞に寄与した形といえますね。また、ノーベル賞に数学部門がないのは、数学部門は「基礎学問」と認識されていたからかもしれません。国語や外国語など言語と同じく、数学は世界共通の「数を取り扱う」言葉のようなものです。文明や技術の発達には欠かせないものですが、ノーベルが重要視したのはその土台ではなく、土台の上に花開いた枝や花といった先端部分だったのかもしれません。

 

しかし数学界にはノーベル賞に代わるフィールズ賞アーベル賞がありますから、数学者たちが「評価されない」ことを理由にモチベーションが下がったり、研究をやめたりすることはなさそうですね。(そもそも数学を研究する人は「評価されたい」をメインのモチベーションとしていなさそうですが…!)