なにもない状態を数学的にどう表すかというと…もちろん「0(ゼロ)」ですよね!4つあったリンゴを4つ食べてしまったら残ったリンゴは0です。3人いた友達のうち、3人と仲たがいしてしまった場合、現在の友達は0です。2本の虫歯を2本とも治療すれば虫歯は0です!このように現在は0という表現は当たり前の存在ですが、0という概念がない時代もありました…。想像するだけでも不便そうです!
今回は0という概念が誕生した歴史や、0という概念がなかった時代についてまとめました。
0という概念が生まれた歴史
「0」という概念は、長い歴史を経て発展しましたが、現在のような形で「数字のゼロ」が確立されたのは、インドでの数学的な革新によります。以下に、その歴史的経緯を説明します。
1. 紀元前3000年頃:メソポタミアでの空位の概念
「0」という概念の最も初期の形は、紀元前3000年頃の古代メソポタミアのバビロニア文明で見られます。当時、彼らは楔形文字を使って、60進法で数を記述していましたが、0にあたる位置を示すために「空位」を表す特殊な記号を使いました。この記号は「0」という数字そのものではなく、「何もない」ことを示す記号でした。
2. 紀元前300年頃:古代ギリシャ
古代ギリシャの数学者たちは、0について考えましたが、ギリシャの数学では0を数字として扱うことはありませんでした。ギリシャの思想家たちは「無」や「空」という概念に疑問を持ち、実際に何もないものを数字として扱うことに対して哲学的な難しさがあったと考えられます。
3. 紀元5世紀:インドで「0」の発展
本格的な「0」という概念が確立されたのは、インドです。紀元5世紀頃、インドの数学者たちは「0」を数として扱うことに成功しました。特に、インドの数学者アリヤバータ(Aryabhata)が「0」を含む数字体系を使用したことが知られています。この体系は、後に「ブラーマグプタ(Brahmagupta)」によってさらに体系化され、0を数字としての存在とみなすことが定着しました。
- ブラーマグプタ(598年–668年)は、0を数として正式に扱い、0を使った計算規則を確立しました。彼の著書『ブラーマ・スプタ・シッダーンタ(Brahmasphutasiddhanta)』には、0を用いた加減乗除の規則が記されています。例えば、0に数を加えると同じ数になる、0から数を引くと負の数になるといったことが述べられています。
4. 7世紀:フワーリズミーによる「0」のアラビア語圏への導入
インドで確立された「0」という概念は、7世紀から8世紀にかけてアラビア語圏に伝わりました。フワーリズミーは、インドで発展した数字体系を取り入れ、彼の著書『算術の書』を通じて、アラビア語圏に広めました。この書物は、後にヨーロッパにも伝わり、ヨーロッパでの「0」の概念の受容に大きく寄与しました。
5. 中世ヨーロッパでのゼロの受容
フワーリズミーの影響で、「0」はアラビア数字体系とともにイスラム世界を通じてヨーロッパに広まりました。最終的に、12世紀頃にはヨーロッパで使われ始め、13世紀のフィボナッチの著書『算盤の書』を通じて「0」が広まりました。この時期を経て、0はヨーロッパでも広く受け入れられ、現代の数学で使われる「0」の概念が確立されました。
0の必要性
「0」は単なる「何もない状態」を示すだけでなく、数学や科学、日常生活において不可欠な概念です。具体的な役割をいくつか挙げます。
① 数体系における重要な役割
「0」は数のシステムを整える上で非常に重要です。例えば、数の概念が1から始まり、負の数や小数などがない時代では、数の体系が不完全で、扱える数の範囲が限られていました。0を導入することで、次のような大きな変革が起きました。
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位取り記数法の確立:0を使った位取り記数法(十進法や二進法)は、数を簡単に表現し、計算を効率化します。たとえば、102や1003といった数は、0がないと異なる数として認識できません。0が位置を確保することで、桁の概念が明確になり、数を表す方法が飛躍的に進化しました。
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負の数や小数の基盤:0が基準となることで、数の上下を明確にし、負の数や小数を理解する基盤が整いました。0は数直線上で正の数と負の数の境界として機能し、数の範囲を広げる重要な役割を果たします。
② 計算における重要性
0は計算の基本的な操作に欠かせません。たとえば、以下の計算の性質があります:
これらの性質を持つ0が存在することで、数の演算が一貫性を持ち、様々な数式や数学理論が正しく成立します。特に、高度な数式や方程式を解く際、0は解として重要な意味を持つ場合が多く、方程式の解や微積分などで頻繁に使われます。
③ 現代技術の基礎
0の概念は、特に現代のコンピュータや情報技術で不可欠な役割を果たしています。コンピュータは二進法(0と1)を基に動作しており、0の概念がなければ、現代のデジタル技術は成り立ちません。
「0」がない時代の解釈
「0」という概念がなかった時代には、「何もない状態」や「空」を表現するために、数や記号以外の方法が使われていました。各文明ごとに異なる解釈がありました。
① メソポタミア文明(紀元前3000年頃)
メソポタミアのバビロニア人は、楔形文字を用いた60進法で数を表していました。このとき、数の「位置」を示すために、空位を表す特殊な記号が使われました。しかし、この記号は「0」とは異なり、あくまで「何もない場所」を示すだけで、数としての0ではありませんでした。
② 古代ギリシャの哲学
古代ギリシャでは、「0」という概念に対して哲学的な疑問がありました。特に、哲学者たちは「何もない」という状態を「存在しないもの」として捉え、それを数として扱うことを避けていました。ギリシャ数学において、0は数として認められず、「無」という概念は抽象的な哲学的問題として扱われていました。
③ インドにおける0の誕生(5世紀頃)
インドでは、5世紀頃から「0」という概念が数としての意味を持つようになりました。特に、ブラーマグプタが0を計算に使う規則を定め、0を数として正式に扱うことが定着しました。この発展によって、0は「存在しない」だけでなく、数体系の中で必要不可欠な数としての役割を果たすことになりました。
「0」の概念がもたらした革新
「0」という数を導入したことで、数学だけでなく、日常生活や技術に多大な影響を与えました。
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商業や会計の発展:0を使うことで、商業や会計においても計算が容易になりました。欠損や余剰を正確に記録し、複雑な取引を明確に整理することが可能になりました。
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科学の進歩:0は科学や工学の分野でも重要な役割を果たします。物理学では、速度や加速度が0である状態を明確に表現できますし、温度や圧力の変化も0を基準にして考えます。これは、物理現象の理解を深める上で不可欠です。
「0」という概念は、単なる「何もない」状態を示すだけではなく、数体系を整え、計算を可能にする重要な要素です。0がない時代には、「何もない状態」は記号や位置で示されていましたが、それを数として扱うことはなく、哲学的な問題としても捉えられていました。しかし、インドで0が数として確立され、その後フワーリズミーらによってアラビア語圏やヨーロッパに広がることで、現代の数学や科学技術に不可欠な概念となりました。